経営・管理ビザ規制強化・厳格化、資本金要件500万円→3000万円へ?
2025/2/26パブリックコメントを受けて改訂
経営・管理ビザ規制強化・厳格化への一考察
かねがね検討されていた経営管理ビザの規制強化ですが、パブリックコメント(国が法令を出す前に案を示し、一般に意見を求める制度)がでました。
主な内容は以下の通りです。
- 資本金・出資金の規模:500万円→3000万円
- 人的要件:一人社長OK→常勤従業員1名の雇用必須
- 経営・管理に関する実務経験3年以上 or 経営・管理または事業に関連する修士以上の学位
- 経営の専門家に事業計画書の事前チェックを受けること
以前から問題になっていた経営・管理ビザの不正利用の問題の本質は、入管法で定める「経営者としての活動実態」がない申請人が、「経営者の活動を行うと虚偽の申告をして経営管理ビザを取得し」日本に滞在しているのではないかという疑いからです。典型的な例でいうと、本邦滞在外国人が高齢の親族を日本に呼びたいなど、移住のツールとして海外の移住ブローカーなどが不適切な広告を打ち出しているものなどがニュースで取り上げられたりしているかと思います。
実際にどのくらいの不正利用があるかどうかは不確かですので、ここでは一旦その話はさておきとして、不正利用の対策としての規制強化の影響を考察します。
資本金の規模を3000万円へ
まず、資本金の規模ですが、現行の法令(基準省令)と審査実務では、申請人に500万円以上の出資規模(例えば資本金500万円以上)であるビジネスを行うことを求めているところ、その出資規模を3000万円(約20万ドル)に引き上げるというものです。3000万円(約20万ドル)は、各国の金融当局による銀行送金規制などもあり、当局や銀行などへの相応の説明無しに簡単に動かすことが困難です。
従前の500万円では、生活資金などの名目で、ほぼ規制なく自由に銀行間送金ができましたが、本件後は国によっては当該国の規制当局の許可がないと難しくなるなど大分ハードルがあがります。中国などはひとりあたり年間5万ドルなどの海外送金規制があるところ、現行は500万円くらいの送金であれば、生活資金として容易に国際送金ができることところ、20万ドルとなると簡単には送金ができなくなりハードルが上がります。また、3000万円となると国籍を問わず動かすことができる人は富裕層などに限られてきますので、安易な移住ツールとして機能しなくなる可能性があります。
【ポイント1】なお、この規模要件をより実効的にするためには、本邦への資金移動が正規の銀行間送金等であることや、資金の流れをトレースできることを当局が確認することが肝要になると思われます。例えば、不動産物件を購入して民泊を開始する場合などでは、何らかのカタチで3000万円以上の資金が日常的に日本国内に投下されていると考えられるためです。
常勤従業員1名以上の雇用
他方で、経営管理ビザの不正な利用についての問題は、入管法で定める経営者としての活動実態がない申請人が、経営者の活動を行うと虚偽の申告をして経営管理ビザを取得し日本に滞在しているのではないかという疑いです。
この点で資本金を500万円を3000万円に引き上げたところで、前述の通りハードルは少し上がるものの、それで経営者の活動をすることを担保できるかというとそうではないわけです。海外で一般的な投資ビザのように一定以上のオカネさえあればニッポンビザが簡単に取れる、海外のタックスヘイブンのような銀行口座を簡単に開設できると思い込んでいる外国人富裕層も多いです。
そこで有効なのが1名以上の常勤従業員の確保です。現行法令における経営管理ビザの常勤従業員を定義する基準は、パートやアルバイトは含まれず、いわゆる正社員であって日本人や永住者などの一定の身分を持つ外国人に限定されています。これらの従業員を継続的に雇用するためには、エコノミクス的に実際に事業を営んでいる必要があります。
外国人富裕層がビジネスオーナーとして資金投下して、現地で人を雇って、何らかのビジネスを行うのであれば経営者の活動に該当しえます。現行の経営管理ビザの審査でも申請人が従業員への指揮命令ができるか?(例えば、日本語や英語などの言語能力、経営者歴、行おうとする事業における実務経験、申請人の年齢など)ということが焦点になることもあります。業務未経験で、日本人スタッフへの指示が日本語でできず(社内に外国語通訳も不在)、超高齢で客観的に本人が経営者として動くことは困難であると推定できる場合などです。
【ポイント2】従業員の退職も考えられるので、本件後の要件は「1名以上の常勤従業員を確保していることのみ」を所与とするのでなく、企業組織の仕組みとしてある程度適切に審査運用できれば、経営者の活動をしない者の不正な申告に対しては一定程度有用かと思います。ちなみに、まさに足元で、経営管理ビザ更新では、過去1年間の活動を説明する書面の提出が必須になりました。
【ポイント3】現在すでに経営・管理の在留資格を持っている人が更新をする際に、常勤従業員を雇用していなくてよいかということが論点になりえます。既に事業が大きくなって多くの従業員をかかえている場合はよいですが、いわゆる一人社長のケースです。1人社長でもよいとするとダブルスタンダードが続き、不公平感を招くことになります。
経営・管理に関する実務経験3年以上 or 経営・管理または事業に関連する修士以上の学位
従来の経営・管理ビザは、企業の経営幹部などの「管理」の業務に従事する場合は3年以上の職務経験を求めていましたが、改正案ではいわゆる社長業の「経営」であっても3年以上の実務経験を求めています。これにより、経営者等の経験がない高齢のおばあさん・おじいさんが経営・管理ビザを取得することが難しくなったといえます。ただし、MBAなどの経営に関する修士号や事業に関連する修士号を持つ人には職歴要件が免除されます。MBAホルダーや工学修士が起業する場合などです。
経営の専門家に事業計画書の事前チェックを受けること
また、入管法施行規則の改定で、提出する事業計画書は事前に、経営に関する専門的な知識を有する者にチェックを受けることとなります。経営に関する専門的な知識を有する者とは、明示はされていませんが、現行の運用要領における企業評価の専門家とされる公認会計士や中小企業診断士などが想定されます。怪しい移住エージェントが提出する事業計画書の防止などの目的でしょうか?
【ポイント4】他方で、経営・管理ビザにおける事業計画書は、外国人起業家ならではの内容となることが多くあります。たとえば、①ビジネスモデルが入管法の経営・管理の要件を満たしていること、②外国からの国際送金規制や外為法の規制(日本銀行への事前届出や事後報告)、③許認可が必要な事業の場合、外国人ならではの特殊な論点の存在、④外国人起業は母国にルーツをもつ事業を営むことが多く、外国人従業員を雇用する場合の入管法のルール(ビジネスがワークするのか否か)などが論点になり、事業評価の知識に加え外国人起業ならではのイシューも多くありますので、これらも踏まえて事業評価できる専門家が必要です。また、東京都のスタートアップビザ等を利用した人など一定の事業計画の評価を受けた申請人には重複するステップかもしれません。
経済産業省(METI)告示のスタートアップビザも要件が変更に
このパブコメにあわせて、METI告示もあわせてパブコメに入っています。内容は、今後一定の期間内に、従来の経営・管理ビザの要件ではなく「新要件」に合致する見込みとなることとするものです。
500万円の一人会社から3000万円出資規模の常勤従業員規模の起業となるので、現在検討している人には、前提がだいぶ変わるものになります。
我が国の国際化・産業振興・スタートアップ支援との関係について
一方で3000万円という初期投資や立ち上げ当初から正社員を1名雇わないといけないのは、日本人の起業家にとっても非現実的です。本邦在留外国人の中でミートするのはスピンアウトした大企業幹部くらいではないでしょうか? 日本人でもその規模で起業する起業家はレアです(私自身、銀行や証券会社で当時の起業家の動向などの調査をしたことがあります)。
政府でも目下、日本の科学技術の振興予算の拡充などの施策も行っている最中です。
したがって、経営管理ビザの厳格化と併せて、例えば、高度専門職加点対象大学や本邦上場会社(METIによる出向起業の推進のようなもの)、または本邦金融機関、自治体等から支援や投融資等を受ける起業家には緩和規定を設ける、高学歴の若者による起業準備のビザであるJ-Findなどの見直し(グローバルTOP100の大学に文科省の指定する大学出身者の起業準備活動を追加して資本金や従業員要件に猶予規定を設けるなど)など、強化するところと優遇するところの両面の施策のバランス(これが難しいのです)が、我が国の国際化と産業振興に資するのではないかと思料しています。
ご参考:現行の経営・管理ビザの要件
新刊:「外国人起業支援ハンドブック」日本法令社より2025/8/21発売
執筆者プロフィール
村井 将一(行政書士/CFP®/証券アナリスト)
三菱UFJモルガン・スタンレー証券でM&A・資本戦略を担当後、外国人向け在留資格コンサルティングを専門に独立。外国人の起業支援、外資系企業に勤務する外国人のビザ、高度専門職ポイントを利用したファストトラック永住申請などを支援。
東京都行政書士会 港支部 副支部長
厚生労働省O-NET出演中