士業ブランディングにおける“周波数”という視座
はじめに──士業ブランディングにおける“周波数”という視座
現代の情報社会において、専門家が発信を通じて「誰かに選ばれる」という現象は、単なる機能比較や価格競争を超えて、より複雑で感覚的な要素を含んだプロセスへと変容しています。
とりわけ士業、すなわち法務・税務・労務・許認可などの専門サービスを提供する職業においては、資格や所属団体によって一定の信頼性が担保されている一方で、「なぜこの先生にお願いしたいと思ったのか」という問いに対しては、論理的な説明ではなく、むしろ感覚的・印象的な理由が挙げられることが少なくありません。
本書で扱う「周波数マーケティング」という概念は、このような“非言語的選好”を理論的に説明し、実務に応用するための試みです。
筆者は行政書士として7年間、主に外国人向けの在留資格や永住許可、国際結婚に関する手続支援に従事してきました。そのなかで、自らが一切広告や価格競争に参加しなくとも、なぜか欧米系の高度人材や大学院卒のITエンジニア、学者などからの問い合わせが自然と集まる現象を目の当たりにしました。
同時に、一般的なボリュームゾーンである東南アジア圏の技能実習生や、価格訴求型の依頼層からのアプローチは、ほとんど皆無であるという事実にも直面しました。これは筆者の業務領域や専門性だけでは説明できない傾向であり、やがて「共鳴する顧客だけが自然と集まってくる」という構造的な現象であるとの確信に至りました。
この共鳴は、偶然の産物ではありませんでした。発信者自身が持つ文化資本──すなわち、学歴、職歴、言語感覚、文章の構成、話し方、Webデザイン、色彩設計といったあらゆる要素が、“におい”のような周波数となって外部に放たれ、それに共鳴した受け手だけが反応していたのです。
この観察結果を理論化する際に参考にしたのが、社会学者ピエール・ブルデューの「文化資本」概念、心理学における「同類性バイアス(similarity-attraction)」や「ラポール形成」、さらには認知科学における「アフォーダンス理論」や「情報過多ストレス」の知見です。これらを踏まえて再構成された本書の核概念が「周波数マーケティング」です。
周波数マーケティングとは、資格や価格、業務内容といった“見えるスペック”ではなく、発信者が持つ文化的・感覚的周波数が、顧客の感受性と一致することで発生する自然な選択行動に焦点を当てる戦略です。
本書は以下のような構成で展開されます:
- 第1章では、周波数という見えない要素が、いかに意思決定に影響しているかを心理学・社会学の理論を交えて紹介します。
- 第2章から第5章では、文化資本や非言語的ブランディング(におい)、発信スタイルの設計などを通して、具体的に“自分らしい周波数”をどう設計するかを段階的に掘り下げます。
- 第6章から第9章では、発信導線の構築、継続の習慣化、紹介・法人化につながる“関係性の資産化”など、周波数を維持・拡張していくための実践的視点を提供します。
- 最終章では、こうした知見を踏まえながら、「選ばれる発信」ではなく「見つかる存在」になるという価値転換の必要性を読者とともに再確認します。
本書は、いわゆる売上拡大のハウツー本ではありません。むしろ、「自分にとって快適な周波数とは何か」「誰とつながりたいのか」という内省的な問いから出発し、ビジネスや発信のあり方を見直すための理論と実践のブックガイドです。
あなたが持つ発信の周波数は、必ずどこかの誰かに届くようにできています。問題は、それが届くべき相手にきちんと“開示”されているかどうかです。
価格で比較されるのではなく、「この人にお願いしたい」と自然に選ばれる。そんな士業の未来を、あなた自身の“におい”で切り拓いてみませんか。
この一冊が、その第一歩となることを願って。
── Continental国際行政書士法人 行政書士 村井マサカズ