外国人起業における収益計画
外国人起業における収益計画
収益計画は外国人と日本人とを問わず極めて重要なファクターです。
しかし、外国人の場合、原則、経営・管理ビザの審査がありますので、入管に提出するための収益計画の作成が必要になります。また、起業準備のためのスタートアップビザを利用しようとする場合、かなり詳細な内容の収支計画(活動スケジュールと収支計画・資金繰りとリンクしたとても複雑な様式、素人だと作成が難しいレベル)の提出を求められます。
無論、収支計画は、第三者に提出するためのものだけではなく、活動スケジュールと資金繰りにも関連した重要なものです。
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収益計画の作成の仕方
売上高
商売というモノは売上高が起点として始まりますが、その推計はとても困難です。一定の前提をおいて、推計することになりますが、そもそもの顧客ニーズの見立てが外れる、新商品や競合の出現、ニーズの変化、インターネットの存在、為替相場の変動、国際紛争にきょる材料費高騰、などから当初の予想は大きく外れます。
上場会社が公表している「中期経営計画」では、3年後などの売上高や利益率などの目標を掲げていますが、そのとおりになる会社はあまりなく、多くが外れます。これは見立ての甘さもありますが、外部環境などが常に変化しているからでもあります。
売上高は
「商品価格(外貨建て・円建て)×販売数量×月(繁忙月・閑散月)」
「サービス価格(外貨建て・円建て)×販売数×月(繁忙月・閑散月)」
などに一定の前提をおいて算出します。
コンサルなどのサービス業の場合、現在の人員で対応できる売上高の限界点がどこにあるのかは重要になります。
この場合、提供するサービスの中で自社が何をどこまでやる、外注先に何をどこまでやってもらうから、月商○○○万円まで対応できるという理屈が必要です。
年次・月次ベース
収益計画は、年次ベースまたは月次ベースがあります。できれば別辞ベースで向こう2-3年分を作成するとよいです。1年だとトレンドが分かりにくいですし、5年や10年だと期間が長すぎて、実態と大きく乖離してしまう可能性があり、作成の意味がなくなってしまいがちです。
月次にする意味合いは、期中の事業のイベント(新規出店、採用、設備投資など)が書き手読み手の双方にわかりやすくなるほか、閑散期と繁忙期、月次ベースの売上高の成長トレンド(会員増によるストック収入が徐々に増加するなど)を明示することができるためです。
外国人起業による粗利率・原価率
粗利益率・原価率は、商品や業界によって概ね決まっています。粗利率は小売業で20-30%くらい、卸売業で10-20%くらい、飲食店であれば、食品原価30%+人件費30%(いわゆるF/Lコスト)などです。コンサルティング業であれば、顧客から得るコンサルティングフィーは原則ほぼ全額が粗利益に相当することもあるでしょう。
自分の会社だけ高い粗利になることはあまりないですが、外国人起業の場合、母国にルーツをもつ商材を取り扱うことが多くあります。例えば、母国と日本で内外価格差が大きな商品を、母国からとても安く仕入れをして、日本での業界相場くらいで売ると粗利益率が業界標準よりも高くなります。
また、日本の民芸品などのレア商品を、OECD諸国などの物価の高い国で外貨建てで販売すると、同じく高い粗利益を達成できる場合があります。日本では相場5000円で仕入れられる品が、200米ドル(3万円)で売れるなどです。
このように取り扱う商材や商流(商売の流れ)を踏まえて、合理的な粗利益率を想定する必要があります。ちなみに、大量に売れる商品やサービスの場合、競合他社の参入で粗利益率は業界標準値へ収束していく傾向にありますので、極端に高い粗利益を維持するためにはニッチな商品になることが多いです。
このようなニッチな商材でない場合は、一般的な業界標準値から乖離していないかどうかチェックしてみてください。例えば、日本で中華麺店を開く場合、平均なラーメン屋や中華屋の原価率・人件費率に収斂します。一般的な業界標準値は、官公庁が公表している参考値や、類似する事業を営む上場会社の公表資料などが参考になります。
営業利益率
売上高-原価-販管費=営業利益となります。
営業利益率も業種ごとに平均値がありますので、業界平均から大きく乖離していると、特殊なビジネスなのか、収支計画が変なのかのどちらかになります。業界平均値が7-8%の業種で営業利益率40%という収支計画をよく見かけますが、銀行員あたりからすると、一目見て落第点の収支計画となるため、その収支計画はあまり信用してもらえません。
営業利益率の数値が変な場合、多くは、粗利益が過大、販管費が過小、になります。販管費について述べると、必要な人件費が計上されていない(スタッフゼロでどんどん売上高が拡大する前提になっている)、売上高の増加に伴って増加する変動経費(不動産管理費用、海外物流費用、外注費用など)が適正な金額でないなどです。
会計上の原価や販管費の中身は詳しく理解していなくてもよいのですが、これらは実際に当該ビジネスを行ったときに支出する費用ですので、既に事業を営んでいる人であればどのような費用がどのくらい出ていくのか体感として知っているはずです。いまいちど、費用についてじっくりと見直してみるとよいでしょう。
外国人の収支予想と実績の乖離
頻出する質問として「収支予想と実績が乖離すると、経営・管理ビザが更新できないのでは?」というものがあります。しかし、経営・管理ビザの更新審査では、予想と実績が乖離していても問題ありません。むしろ実社会で、収支予想どおりに実績が着地するケースのほうがレアですので問題ありません。
ただし、赤字が膨らみ債務超過になってしまう場合は、1年以内に債務超過を解消できる手立てと事業計画を入国管理局へ説明し、併せて公認会計士や中小企業診断士などの意見書を提出しなければなりません。そのため、月次収支で債務超過になりそうであることが予想できるときは、あらかじめ増資、債務免除などをおこない、債務超過を回避することが賢明です。
この記事を書いた人
村井将一(むらい まさかず) 三菱UFJモルガン・スタンレー証券(三菱UFJフィナンシャルグループと米モルガン・スタンレーとのジョイントベンチャー)で企業の資金調達やM&Aなどのアドバイスを行う投資銀行業務に従事。 在職中、現場業務に従事しながら従業員組合中央執行委員として職場内の外国人や女性の活躍などのダイバシティ推進、労務環境改善活動に従事。専門は外国人の在留資格手続きに関わるコンサルティング及び財務コンサルティング。
行政書士(東京都行政書士会港支部 副支部長)
CFP(日本FP協会)
公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員