外国人起業の相談の実務現場
コラム:行政書士による外国人起業の相談の実務現場
外国人ビザ業務をおこなう行政書士にとっていわゆる「経営・管理ビザ」と呼ばれる在留資格「経営・管理」に関する相談は、比較的多いテーマかもしれません。
「経営・管理」の在留資格は、簡単に言えば「日本で経営者として活動すること」を前提としたものです。この活動を行うためには、それに見合った能力が求められます。その能力とは、事業に関連する実務経験や経営者としての経験、気力や体力、場合によっては日本語や英語などの語学力などを指します。
筆者の経験上、相談の約8割は次のような内容です。
「高齢の親や親戚と日本で一緒に暮らしたい。しかし、ルール上、家族滞在ビザや就労ビザはとれない。高齢だし主婦だったので会社経営もたぶんできないのだけど、経営・管理ビザなら何とかならないだろうか?」
「とりあえずビザだけ取りたい。お金は出すからあとは適当に何とかしてほしい。」
典型的なケースでは、申請者が高齢の親であり、日本で行おうとする事業に関連した実務経験や会社経営の経験がない場合が多いです。周囲の人間も申請人には経営者の活動が実質的にできないと認識しているため、名前だけ「代表取締役」になることを所与としていることも多くあります。
また、事業運営をするために必要な言葉(母国語のほかに日本語や英語など)が話せなかったり、現場を管理するスタッフがいなかったりする場合、実際の事業経営が息子や娘などの第三者によって行われたり、事業そのものがペーパー上のもので実態を伴わないものになる可能性もあります。
実際に経営者として日本国内で活動できない場合、法令の要件を満たさないため、経営・管理ビザは不許可となります。また、法令の要件を満たすと偽装し、虚偽の申請を行った場合、入管法に基づき在留資格の取り消しや刑事罰が科される可能性があります。
そのうえ、申請を代行した弁護士や行政書士も入管法違反により刑事罰の対象となりえます。仮に刑事事件とされなくても、行政書士会などから懲戒を受け、廃業勧告を受けるなど実質的に業を継続できなくなる可能性もあります。
さらに、入管当局には、申請者や雇用主、申請取次者(弁護士や行政書士など)に関する「要注意人物リスト(いわゆるブラックリスト)」が存在しているといわれています(運用要領より)。
海外では「500万円払えば日本ビザが取れる!」「教育費、医療費タダ!」といった広告で違法な在留資格申請を誘発する、怪しげな移住ブローカーが存在しています。
また、日本国内でも法令要件に適合しない案件を紹介したり、相談に応じたりするエージェントや専門家も存在します。
外国ではお金を出せば「ビザを買える」国もあるようで、申請人の外国人側にも「お金さえ出せば、外国の法令があってもそれは無視してもよい。」という遵法意識の低い人やその関係者も一定程度見受けられます。
このような状況の中で「いわゆる経営・管理ビザ」に関する相談を受ける際には、専門家側は職業倫理を堅持することが非常に重要です。私たちの職権や専門知識はルールを守り安全な社会活動を実現するためのもので、規則を破らせるためにあるのではありません。
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この記事を書いた人
村井将一(むらい まさかず)
1977年生まれ。三菱UFJモルガン・スタンレー証券(三菱UFJフィナンシャルグループと米Morgan Stanleyのジョイントベンチャー)で企業の資金調達やM&Aなどのアドバイスを行う投資銀行業務に18年間従事。在職中500人を超える起業家や上場企業経営者に対して事業計画や資本政策などの財務・資本戦略についての助言を実施
専門は外国人の在留資格手続きに関わるコンサルティング及び財務コンサルティング。趣味は日本人アイドルのコンサートとディカプリオ映画と猫と遊ぶこと。
行政書士(東京都行政書士会港支部 副支部長)
CFP(日本FP協会)
公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員
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