外国人の日本での社会保険
- 日本の社会保険制度の概要
外国人経営者が会社を設立して日本で事業経営を開始した場合、社会保険義務があります。経営管理ビザの更新の要件に社会保険への加入について審査の対象とする旨が明記されています。また、社会保険加入義務のある事業者が外国人従業員を雇った場合も、適法に社会保険に加入することが必要です。
社会保険とは、日本国憲法に規定する国民の生存権(健康で文化的な最低限度の生活を営む権利)を保証し、社会福祉と公衆衛生の向上を図るために保険方式で日本の国が責任を持ち運営するものです。疾病、負傷、死亡、出産、老齢、障害などの理由で生存権を脅かす事故等が生じた場合に一定の保険給付を行うことで保険に入っている人とその家族や遺族の生活を保護する目的で作られた制度です
1.社会保険の種類(5種類)
日本の社会保険の種類は以下の、社会保険(医療保険、年金保険)と労働保険(労災保険、雇用保険)大きく2種類があります。病気にかかったときの治療費の保障や老後の年金、仕事中にけがをした場合、失業した場合の給付などに充てられています。
外国人であっても、これらの社会保険・労働保険が適用されますので、病院で一定の本人負担で治療を受けたり、年金の受給、仕事中のケガ等に関する保障などを受けることができます。
(例)日本で入院手術をして100万円の医療費がかかった(医療保険)
例えば、入院手術をした時に、医療費の合計が100万円かかった場合、日本の医療保険に入っていれば、医療費の7割は健康保険が負担してくれます。つまり、自己負担額は30万円になります。さらに日本の医療保険には「高額療養費制度」という制度があり、一般的な収入の場合では自己負担分は約8万円程度に、つまりは1割以下に抑えられます(本人の収入や加入している健康保険組合などによっても変わってきます)
1.医療保険(国民健康保険・健康保険組合)
病気をした時の治療費の負担額が原則本人3割負担などですみます
2.年金保険(国民年金・厚生年金保険)
老後や障害者になった時に年金が支給されます
3.労災保険 仕事中にケガなどをした時に治療費などが保障されます
4.雇用保険 失業した時に失業給付などがされます
2.社会保険に加入しなければならない事業者
株式会社・合同会社などの法人の事業所は、業種や事業主の国籍、従業員の人数に関係なく、外国人の社長が1人だけの会社の場合でも強制加入になります。
個人事業主は、5人以上の従業員を雇用する場合で一定の業種を営む場合に強制加入となります(詳細は下記をご参照ください)。
外国人の代表取締役1名のみの会社
外国人の代表取締役1名のみの会社であっても加入義務があります。必ず健康保険・厚生年金保険の両方に加入しなければなりません。健康保険のみに加入するということは認められません。
(永住権取得の審査時に加入の状況と納付期限の遵守状況が確認されます)
なお、法人の健康保険は健康保険組合(組合健保)と全国健康保険協会(協会けんぽ)の2つがあります
通常、外国人が新規で設立する場合は、原則②全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入するかたちになります。
常時700人以上の従業員がいる企業等が厚生労働大臣の許可を得て独自の健康保険組合を設立しているものです。日本の大企業の多くは企業独自の健康保険組合を持っています。健保組合独自のプラスαの福利厚生を提供していることも多くあります
組合健保に属さない、主に中小企業の従業員が加入するのが、全国健康保険協会(協会けんぽ)が運営する健康保険です
個人事業主の場合
個人事業主は、外国人であっても原則国民健康保険+国民年金等に加入します。また、個人事業主に雇われる従業員も国民健康保険に加入します。
ただし、個人事業主が従業員を雇用する場合、雇用する人数が5人を超え、かつ、以下に該当する事業を行なっている場合には必ず社会保険に加入しなければなりません。該当するかどうかわからない場合には、日本年金機構(年金事務所)などに確認してみましょう。
①強制適用事業所(必ず加入する)
常時5人以上の従業員を使用する事業所で、以下の特定の16業種の事業を行っている事業者
- 物の製造、加工、選別、包装、修理又は解体の事業
- 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業
- 鉱物の採掘又は採取の事業
- 電気又は動力の発生、伝導又は供給の事業
- 貨物又は旅客の運送の事業
- 貨物積卸しの事業
- 焼却、清掃又はとさつの事業
- 物の販売又は配給の事業
- 金融又は保険の事業
- 物の保管又は賃貸の事業
- 媒介周旋の事業
- 集金、案内又は広告の事業
- 教育、研究又は調査の事業
- 疾病の治療、助産その他医療の事業
- 通信又は報道の事業
- 社会福祉法 (昭和二十六年法律第四十五号)に定める社会福祉事業及び更生保護事業法 (平成七年法律第八十六号)に定める更生保護事業
②任意適用事業所
上記①の適用事業所以外の事業所であっても、使用者と従業員が希望し、管轄の社会保険事務所に届出・承認を受けることによって加入することができます(=任意で加入している事業所です)
・上記の16業種で、常時5人未満の従業員を使用する事業所
・上記の16業種以外の業種の事業所(例えば会計事務所など)
2.社会保険に加入させなければならない従業員
正社員は加入必須
社会保険の適用事業所に雇用される従業員は、その人の意思・地位・性別・年齢・収入・国籍を問わず社会保険(健康保険、厚生年金保険)の被保険者となりますので、外国人の従業員も対象となります。
アルバイト・パートは原則正社員の3/4以上働いている場合に加入しないといけない
外国人のアルバイトやパートの従業員も1週の所定労働時間および1月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上の場合は社会保険の被保険者となり加入が必要になります。
また、一般社員の所定労働時間および所定労働日数の4分の3未満であっても、下記の5要件を全て満たす方は、被保険者になります。
- 週の所定労働時間が20時間以上あること
- 雇用期間が1年以上見込まれること
- 賃金の月額が8.8万円以上であること
- 学生でないこと
- 常時501人以上の企業(特定適用事業所)に勤めていること
社会保障協定締結国の出身者で出身国の健康保険制度に加入している外国人は対象外
社会保障協定を締結している国の外国人で当該国で保険料を収めている人は日本の社会保険の対象外になります。社会保障協定とは以下の点を目的に一部の国と締結している国際協定です。
- 日本と外国での保険料の二重負担を防止するために加入するべき制度を二国間で調整する(二重加入の防止)
- 外国人が支払った保険料の掛け捨てとならないために、日本の年金加入期間を協定を結んでいる国の年金制度に加入していた期間とみなして取り扱い、その国の年金を受給できるようにする(年金加入期間の通算)
- 社会保障協定の発効状況は以下は日本年金機構HPをご参照ください
3.労働保険に加入しなければならない事業者
【労働保険】
法人・個人事業主に関わらず1人でも労働者を使用する事業主は加入しなくてはなりません。正社員、アルバイト、パートなどの雇用形態は関係なくすべての従業員が対象です。勤務時間などの長短も関係なく対象となります。
【雇用保険】
法人・個人事業主に関わらず1人でも労働者を使用する事業主は加入しなくてはなりません。ただし、以下の従業員は雇用保険の対象外になります。
・31日以上の雇用見込みがないこと(雇用契約などで31未満の雇止めの明示があるときなど)
まとめ
社会保険・労働保険は内容がとても複雑で細かいに部分に入ると「ウチの場合、どうしたらよいだろう?」ということもたくさんあるかと思います。このページで全体像をつかんでいただき、細かいところは社会保険労務士に相談しながら進めることをお勧めします。文中にも記載していますが、社会保険への加入は公的義務であり、永住権の取得や特定技能外国人の採用などお考えならば、加入は必須となります。
なお、当事務所では、外国人の方の社会保険にくわしい社会保険労務士を紹介することも可能ですので社会保険も安心して手続きしていただけます。
この記事を書いた人
村井将一(むらい まさかず)
1977年生まれ。三菱UFJモルガン・スタンレー証券(三菱UFJフィナンシャルグループと米Morgan Stanleyのジョイントベンチャー)で企業の資金調達やM&Aなどのアドバイスを行う投資銀行業務に18年間従事。在職中500人を超える起業家や上場企業経営者に対して事業計画や資本政策などの財務・資本戦略についての助言を実施
専門は外国人の在留資格手続きに関わるコンサルティング及び財務コンサルティング。趣味は日本人アイドルのコンサートとディカプリオ映画と猫と遊ぶこと。
入国管理局申請取次行政書士・CFP(Certified Financial Planner)・日本証券アナリスト協会検定会員
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