不動産投資業(賃貸業)で経営管理ビザを取る
 日本で不動産投資をして不動産賃貸業を営む予定の外国人です。経営管理ビザを取得することはできますか?
日本で不動産投資をして不動産賃貸業を営む予定の外国人です。経営管理ビザを取得することはできますか?
 賃料収入等で事業経費と役員報酬を十分まかなえることのほか、申請人の経営活動や財務的にも注意すべき点が多くあります。
賃料収入等で事業経費と役員報酬を十分まかなえることのほか、申請人の経営活動や財務的にも注意すべき点が多くあります。
新刊:村井将一著「外国人起業支援ハンドブック」日本法令社より2025/8/21発売
不動産投資業(賃貸業)での経営管理ビザ取得
現在、世界的な不動産価格の高騰で、不動産価格が割高になり、米欧、アジアの一部の国や地域では不動産利回りが急低下しているほか、バブル崩壊の懸念も指摘されています。そこで、相対的に不動産価格が安定し、投資利回りが高く、不動産取引市場も安定している日本での安定的な収益を企図する不動産投資家は多くいます。かつ、日本は医療や教育その他の住環境が良好であるとして、経営管理ビザを取得したいという外国人のニーズもあります。
また、日本では、近年はインバウンド外国人観光客の増加などで、民泊など宿泊業は活況を呈していました。さらに、改正旅館業法や改正建築基準法による規制緩和などによりビジネスチャンスも広がりました。ただし、直近では、一部の者や移住エージェントなどによる経営・管理ビザ取得を目的(例:外国人高齢者などの単純な移住目的など)として、不適切に特区民泊制度が利用されている疑いが社会問題化するなどもあり、入管審査の運用が厳しくなっています。
入管法によると経営・管理ビザは、あくまで経営者の活動をする者に付与される在留資格であり、経営者としての活動実態の無い者は該当しません。そのため、法改正により申請人の経歴要件が追加され、申請人に経営者や管理者の職務経験が3年以上あること、または経営管理または事業に関連のある分野での修士号以上の学位があることが規定されました。
従来、外国人高齢者の母親などを日本に呼び寄せるために経営・管理ビザを不適切に利用することなどが指摘されていましたが、法改正により難しくなりました。申請人に修士号以上の学位または一定の経営者歴が求められるためです。
賃料収入で全ての事業経費をまかなえること
不動産賃貸業で経営管理ビザを取得するためには、不動産投資物件の賃料収益で全ての事業経費を会計上まかなえること(=会計上の収支予測がプラスになること)が肝要です。
従って、不動産物件の管理費用、建物減価償却費または支払い賃料、不動産取得に関わる費用に加えて、役員報酬(最低でも年間300万円以上〜)、日本人などの1名以上の常勤従業員の給与(最低でも年間300万円以上~)、社会保険、自宅以外のオフィスの賃料、税理士費用その他の事業経費をまかなう必要があります。日本の不動産の利回りを4%前後と仮定すると、不動産投資事業では物件価格3億円以上くらいの賃貸不動産物件の所有が1つの目安になります。
また、物件取得に関わる借入金がある場合、その約定返済の金額を除いて、キャッシュフロー・ベースでもプラスになる事が重要です。外国人が経済的に安定的に日本で生活していくために、毎月の借入金を返したら首が回らなくなる状態では困るからです。
注意すべき点
不動産投資業で経営管理ビザを取得するに際し、注意すべき点は以下の通りです。
1)不動産物件取得時等に会計上大きな費用がかかるため債務超過に注意
日本での不動産物件の取得時には、物件価格のみに目がいきがちですが、不動産取得をする際には、不動産仲介手数料や不動産取得税、物件の建物減価償却など多額の費用が会計上計上されます。また、不動産物件の取得時期やそこに入居者が入り、賃料が発生するまでのタイムラグも考えると、不動産の取得からしばらくの間は赤字の状況が続くこともあります。もしも、経営管理ビザで求められる資本金3000万円で会社を設立している場合、その後累積赤字(=会計上の繰越損失)が3000万円以上となった場合、債務超過となってしまいます。
債務超過になると、在留資格更新の際に公認会計士や中小企業診断士などの公的資格を持つ第三者の専門家により、今後1年以内に債務超過を解消する見込みについての意見書をもらう必要があります。債務超過が2年連続続くと、経営管理ビザを更新することができなくなる場合があります。
※不動産投資を会計ベースでなくキャッシュフローベースで考えている人が多いため、注意が必要です。
物件取得は一般的には、オーナーの個人貸付けが大半ですので、自分の個人資金で物件に投資するのだからなんら問題ないと思いがちですが、在留資格審査における企業会計上の取り扱いに注意が必要です。従って、資本金を大きくしたいところ、資本金の金額によっては税務上の論点も生じえますので、取得予定の物件に関わる経費や期待できる収益額などを計算しつつ、顧問税理士などともよく相談して決定する必要があります。
一方で、収益を拡大していくためには、新規投資が必要ですので、現実的には、第三者割当増資などによる自己資本の増強をしていかなくてはいけません。
2)不動産投資業は銀行法人口座を開設しづらい
また、不動産投資業は銀行の法人口座を開設しづらいことが多く見受けられます。日本の銀行が不動産業に対して慎重であることに加えて信用力のない(=経営管理ビザは当初1年の在留期間しか認められないため在留期間の不安定さがあります)外国人に対しては、「総合的判断」により口座開設をしないとする銀行も多数あります。
「総合的判断」であるため、なぜ口座開設ができなかったのかの理由を知ることはできません。
銀行のHPなどに記載されている資料だけでなく、事業計画書や経営者の経歴書、母国には多額の預貯金がある証明などの個人の財産的背景などプラスになる面を積極的に訴求していくことが肝要かと思います。
不動産投資業で経営管理ビザを取るためには
不動産投資業で経営管理ビザを取得し、更新していくためには上記のような留意点があります。また、最近では、ビザ全般の審査の厳格化により経営管理ビザの取得も難しくなっています。
具体的には、事業の安定性継続性を判断するために事業計画(中小企業診断士や税理士などの評価が必須)や外国人本人の経歴(上述の経営者歴または学歴)などが以前よりも厳格に審査されます。また、日本人や永住者などの常勤従業員を1名以上雇用しなければならないため経費も従来よりもかさみます。経営者としての活動も従来以上に見られるため、単なる不動産オーナーで「経営者の活動は特に何もしない」という状態では許可が取得できない可能性があります。不動産賃貸業の業種上、オーナー経営者の活動の内容や職務に従事する時間などが、入管法でいう「経営者の活動」に該当するか否かは判断が難しいところでもあります。
確実に経営管理ビザを取得し、それをその後も更新していくためには、当初から不動産投資業に詳しい税理士や行政書士などの専門家とタイアップして事業計画を考えていく必要があります。ビザ取得または更新で心配な時はぜひご相談ください。
新刊:村井将一著「外国人起業支援ハンドブック」日本法令社より2025/8/21発売
この記事を書いた人
 村井将一(むらい まさかず)
村井将一(むらい まさかず)
三菱UFJモルガン・スタンレー証券(三菱UFJフィナンシャルグループと米モルガン・スタンレーとのジョイントベンチャー)で企業の資金調達やM&Aなどのアドバイスを行う投資銀行業務に従事。
在職中、現場業務に従事しながら従業員組合中央執行委員として職場内の外国人や女性の活躍などのダイバシティ推進、労務環境改善活動に従事。専門は外国人の在留資格手続きに関わるコンサルティング及び財務コンサルティング。
行政書士(東京都行政書士会 港支部 副支部長)
CFP、日本証券アナリスト協会検定会員
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