外国人の日本での会社設立:完全ガイド【2024年版】
外国人が日本で会社設立(株式会社)をするための手続きと、注意点があれば教えてください。
外国人の会社設立の手続きには、とても多くの注意点があります。全てを検討するのは多くの時間や労力がかかります。
外国人が日本で会社設立するための完全ガイド【2024年最新版】
この記事の目次
1. 外国人の起業プロセスの中の会社設立の位置づけ
2. 外国人が会社設立するまでの流れ
3. 外国人材が用意する書類
4. 会社設立の費用
5. 株式会社の基本事項の決定
5.1 会社名の決定
5.2 会社住所(本店所在地)
5.3 資本金と出資者
5.4 事業年度の決定
5.5 事業の目的
5.6 発行済株式数と発行可能株式総数
5.7 公告の方法
6. 定款の作成と公証役場での認証
7. 資本金の払い込み
8. 登記申請と会社設立の完了
9. 税務署への各種届出
10. 社会保険等の届出
1.外国人の起業プロセスにおける会社設立の位置づけ
日本での会社設立は、外国人にとっても魅力的な起業手段ですが、手続きが複雑です。日本で会社を設立するプロセスは、以下の6つのステップで構成されています。
【STEP1】事業計画の策定
【STEP2】会社設立 ← Here
【STEP3】事業許認可の取得(必要な場合)
【STEP4】経営管理ビザの取得
【STEP5】資金調達
【STEP6】経営管理ビザの更新(決算・財務などが重要)
外国人が会社設立をする場合、事業の許認可の有無や、経営管理ビザの要否、資本金の金額、事業所、定款の内容などを確認しなければなりません。
「永住者」や「日本人の配偶者等」「定住者」などの活動に制限のない在留資格の外国人は、経営管理ビザを取得することなく起業ができます。ただし、それらの在留資格ではなくなった場合、会社経営ができなくなることもあるため注意してください。
(参考:外国人材が起業する場合のポイントと注意点)
2.外国人の会社設立の流れ(2週間〜4週間)
外国人の会社設立は、その準備から会社登記の完了まで一般的には2〜4週間程度かかります。役員が全員日本に居住している場合は2週間程度、外国に居住している役員がいる場合には、外国での必要書類(外国のサイン証明書や会社謄本など)の手配や国際郵便などで4週間程度を想定しています。
①会社名・所在地・資本金などの基本事項を決定
②必要書類を日本または母校で準備
③定款を作成し公証役場で認証する
④出資金を個人口座に払い込む
⑤法務局で登記申請
⑥税務署等へ各種届出(経営管理ビザ申請時に届出書類を添付します)
3.外国人が用意する必要書類
会社設立に際して、外国人が用意するのは以下の書類等です。
a.法人の実印
b.印鑑証明書原本(又は各国の印鑑公証書やサイン証明書)2通
c.資本金の振込証明書
d.発起人及び取締役の個人の実印
4.会社設立の費用(株式会社の場合)
日本で会社設立をするには、以下のような費用がかかります。合計で30万円~40万円です。
(ご参考:経営管理ビザと起業費用)
公証役場:定款認証料50,000円+印紙税40,000円(行政書士を経由する場合は無料)
法務局:登録免許税150,000円
行政書士・司法書士等専門家費用 100,000~150,000円程度
5.株式会社の基本事項の決定
株式会社の設立に際し、会社名や本店所在地、資本金の金額や役員構成、事業目的などを決定する必要があります。事業の許認可が必要な場合や経営管理ビザを取得する場合は、それらの条件を満たすように設計することとなります。
1.会社名(商号)
2.会社住所(本店所在地)
3.資本金
4.出資者(発起人)と役員構成
5.事業年度
6.事業目的 など
5.1 会社名の決定
会社名(商号)は、使用できない文字や語句などがあります。ハングル文字や簡体字などは日本では登記できません。また、同じ住所で同じ商号は使用できません。さらに、商標登録されている商号などがある場合、商標権や不正競争防止法などに基づいて、訴訟が起こる可能性もあるため注意してください。
使用可能な文字 | 〇漢字・ひらがな・カタカナ 〇ローマ字(大文字でも小文字でも可) 〇アラビア数字(0,1,2・・・などの算用数字) 〇一定の符号(「&」、「’」、「,」、「‐」、「.」、「・」) ※符号は最初と最後には使用不可。ピリオドのみ最後に使用可能 ※「空白(スペース)」はローマ字の商号の時にのみ使用可能 |
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使用できない文字 | ×ハングル文字、中国簡体字・繁体字その他上記以外の外国文字 ×会社の一部門を表す文字(例:●●支店、●●事業部など) ×同一住所で同じ又は類似した商号 ×特定業種のみ使用できる語句(例:銀行、信託、保険など) ×わいせつな語句や犯罪に関連するような語句(例:麻薬、殺人など) ×有名企業の称号(東洋不動産、SONY、三菱商事など) ×商標登録されている商号 |
5.2 会社住所(本店所在地)
永住者や配偶者ビザなどの活動制限のない在留資格を持つ外国人は、原則、本店の事業所をどこに設けても良く、自宅開業も可能です。しかし、経営管理ビザ を取得する場合には、自宅とは別の事業用の事務所や店舗を確保することを求めています。その際の注意点は、「法人名義で契約」することと「使用目的を事業用」にすることです。
日本人 永住者 日本人の配偶者等 永住者の配偶者等 など | 〇原則オフィスをどこに設けても良い (営む予定の許認可等で別途事業所や店舗の様式や広さなどの要件が設定されている場合あり) |
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経営管理ビザを取得する場合 | 事業所の確保(存在)があること 使用目的が事業用であること(居宅用はNG) 賃貸借契約等の名義が会社名義で法人の使用であること(個人名義はNG) 原則自宅とは別の場所に事務所を確保すること(一定の条件あり) ×自宅マンション (戸建てで事務所スペースと居宅スペースが完全にわかれている場合等は認められる可能性あり) ×マンスリーマンション ×バーチャルオフィス ×共同事務所・他の事務所の間借り ○賃貸事務所 ○レンタルオフィス(独立した個室) ○インキュベーションオフィス |
5.3 資本金と出資者
外国人が資本金の金額を決定する際は、①経営管理ビザの要件、②税金、③創業融資等のための自己資金水準、④許認可の必要がある場合の資本金要件など、を考慮し検討していきます。
経営管理ビザは、在留資格を申請する外国人が1人で500万円以上を出資する事を求めています。
経営管理ビザ要件の充足 |
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経営管理ビザの取得には、総額500万円以上の出資金額が必要 – 実務上は申請人による全額出資が必要
例: × 申請人300万円+事業パートナーA氏200万円=500万 ○ 申請人500万円以上
または、日本に居住する2名以上の常勤従業員を雇用 – パートタイマー、派遣・請負社員、在籍出向者は該当しない – 日本人、特別永住者、永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者が該当 |
創業融資等銀行融資の自己資金の側面 |
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創業融資制度によっては、事業全体で要する資金の1/10〜1/2の自己資金(=資本金)を準備しているかどうかを要件としている場合がある 事業全体で必要となる金額(自己資金+創業融資の金額)から逆算した資本金を設定すべき |
税金の観点 |
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設立時の資本金が1,000万円未満の場合、原則設立事業年度と翌事業年度は消費税を納めなくても良い (特定期間の売上高が1000万円を超え、かつ、従業員らへの給与の額が1000万円を超える場合等には課税事業者となる場合がある) 法人住民税の均等割は資本金が1000万円を超えると年額7万円→16万円へ増額される |
必要な事業許認可の資本金要件 |
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開始する事業によっては許認可が必要となり、その許認可の要件に資本金要件がある場合にはその金額を満たす必要がある 例:人材派遣業 2,000万円 など |
出資金の払い込み
出資金を日本にある個人銀行口座へ払込み、払込証明を行います。日本の銀行で個人口座を開設する場合、銀行によって一定期間以上(6ヶ月以上など)日本に在留していないと口座を開設できないことがあります。
日本で銀行口座を持っていない場合は、日本にいる事業パートナー(発起人または設立時取締役)などの個人銀行口座を利用して払込をすることができます。
発起人でない取締役に関しては、「発起人が設立時取締役に対して払込金の受領権限を委任したことを明らかにする書面(委任状)」をつければ、その取締役個人名の通帳への払い込みが可能です。日本に居住する知人等に便宜的に設立時取締役(外国人の場合は、取締役になれる在留資格であること)になってもらい、本人が来日するまでの会社設立事務を手伝ってもらい、本人来日後に取締役から退任することが考えられます。
親族等からの借入れ
自己資金だけでは500万円が用意できない場合に、親族等のからお金を借りるケースも多くあります。親族などから資本金を借りる場合でも経営管理ビザは取得できますが、入国管理局からは、金銭消費貸借契約書、送金記録、親族等の収入や財産が分かる書類などで資金の出所を証明することが求められます。なお、創業融資の場面では、借入れは自己資金としてみなされない点には注意が必要です。
金銭消費貸借契約書
送金記録
親と申請人との関係を証明するための「親子関係公証書」
親の在職証明書
親の納税証明書
親の銀行口座からお金を引き出したことがわかる預金通帳のコピー
現金を持ち込んだ際の出入国歴がわかるパスポートのコピー
5.4 事業年度の決定:節税や資金調達のポイント
事業年度とは、会社の経営状況を明らかにするための会計期間のことです。会社設立時にこの事業年度を決定する必要があり、いつからいつまでを1年とするかが会社の運営に影響を与えます。適切な事業年度の設定は、税金の負担軽減や資金調達の有利化につながるため、慎重に検討することが重要です。
事業年度を決める際のポイント
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初年度の期間を最大限にする
- 会社設立から最長の期間を1期目とすることで、初年度の決算や税務申告のタイミングを後ろ倒しにできます。
- 例:7月5日設立 → 初年度を「7月1日〜翌年6月30日」に設定。
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繁忙期を避ける
- 事業年度の終了後、2ヶ月以内に決算申告を行う必要があるため、忙しい時期を避けた事業年度の設定がおすすめです。
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節税対策の考慮
- 第1期目の期間が短いと、その年の収益が少なくなり、初年度の税金が軽減される場合があります。
- 資本金が1,000万円未満の場合、消費税等の税制が有利になることがあります。
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資金調達への影響
- 事業年度の設定は、融資や資金調達にも関わります。特に創業融資を受ける際は、計画通りの収益を確保できる期間設定が重要です。
- 金融機関は事業計画書の収益予測をもとに判断するため、事業年度の見直しが融資の可否に影響を与えることもあります。
5.5 事業の目的
会社法では会社は定款に定められた事業目的の範囲内のみで活動ができると定められています。始めようとする事業に許認可が必要な場合、許認可取得のために必ず定款の事業目的に記載すべき文言もあるため注意が必要です。
事業目的を決める際のルール
適法性 | 営利性 | 明確性 |
商号と同じく公序良俗に反するものは認められない 法律により特定の業種の独占業務とされているもの(税理士など)は認められない | 会社は営利目的の組織であるため、ボランティアや寄付などの活動は事業目的としては認められない 非営利目的の場合は、NPO法人などの設立が必要 | 事業目的は一般に広く認知された語句を用いて記載する必要がある 例:×FC→○フランチャイズ |
事業目的記載のポイント
将来的に行う可能性のある事業も記載する | 設立後すぐに展開する事業以外に、将来行う可能性のある事業も記載する。一度登記した後に事業目的を増やして登記し直す場合は追加で登記費用がかかる |
許認可業種について考慮する | 事業によっては許認可が必要。許認可ごとに事業目的の記載が異なるため予め監督官庁に確認要 |
本業を最初に記載する | 基本的に一番上に記載する事業目的が本業を意味する。以降は将来的に行う可能性が高いものから順番に記載していき、最後に「全各号に付帯する一切の業務」という文言を加える |
必要以上に多く書きすぎない | 必要以上に多くの事業目的を並べた場合、何をやっている会社か分からず、創業融資審査に影響が出る可能性もあるため、創業当初は多くても10程度以内に絞ること。 |
許認可が必要な主な事業
管轄 | 事業目的 | |
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宅地建物取引業 | 国土交通大臣または都道府県知事 | 不動産の売買、賃貸、仲介[及び管理] |
建設業 | 国土交通大臣または都道府県知事 | 土木工事業 建築工事業 大工工事業 左官工事業など |
飲食店、喫茶店 | 都道府県知事または市長 | 飲食店の経営 [居酒屋、レストラン、インターネットカフェの経営]など |
古物営業・中古品販売 | 公安委員会 | 古物営業法に基づく古物の売買 中古事務機器類(●●●)の買取及び販売[及び輸出入]など |
労働者派遣事業 | 厚生労働大臣 | 一般及び特定労働者派遣事業など |
旅行業 | 国土交通大臣または都道府県知事 | 旅行業 旅行業者代理業など |
5.6 発行済株式数と発行可能株式総数
株主からの設立時の出資金が確定した後に、発行済株式数と発行可能株式総数を決定する必要があります。発行可能株式総数とは、会社設立時の株式会社が実際に発行する株式数と異なる、将来に向かって、定款を変更することなく発行が可能な株式数の総数のことで、会社の設立時の定款に、必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」の1つです。1株あたりの出資金額(株価)は会社が任意に決められます。計算のしやすかから1万円や旧額面である5万円が一般的です。
発行済株式数(設立時に発行される株式の数)=出資金の総額÷1株あたりの出資金額
5.7 公告の方法
公告とは、決算や会社の合併等が生じた場合に社外に向けて情報公開することで、定款にその公告方法を記載する必要があります。公告の方法には、官報(国の機関紙)、日刊新聞紙、インターネット(電子公告)の3つがあります。電子公告は、自社のウェブサイト等に掲載する方法ですが、掲載されたことを証明する必要があり手間と費用がかかり、大企業で採用されることが多く、小規模な企業ではあまり採用されていません。費用と手続きが簡便な官報をお勧めいたします。特に定款に定めなかった場合も官報を選択したものとされます。
6.定款の作成と公証役場での認証
「5.会社の基本事項の決定」で定めた項目に沿って当事務所が会社定款を作成します。作成した定款は、公証役場の公証人により認証されます。この時に所定の印紙税と定款認証料がかかります。
7.資本金の払い込み
定款の認証が終わったら、個人の銀行口座へ資本金を払い込みます。
7.1 資本金の払い込み時期
資本金は「定款認証日以後登記申請までの間」に発起人の個人銀行口座へ振り込みます。すでに個人銀行口座に500万以上の残高があり新たに送金する必要がない場合、発起人の個人口座(通帳)に、定款認証後の日付で「振込・預入など」として資本金相当額が入る必要があるため、銀行窓口で一度出金して直ちに入金することも考えられます。
なお、払い込まれた資本金は会社設立後であれば、経営管理ビザの申請前であっても設備投資や広告費等に使っても構いません(=経営管理ビザ申請時に500万円以上の現金残高を確保しておかなければならない訳ではありません)。
7.2 海外送金時の留意点
通常、海外送金は振込手数料や為替手数料がかかるため、資本金額に為替手数料等を加えた金額を送金する必要があります。例えば、定款に定めた500万円の資本金よりも少ない499万円の着金になると資本金を全額払い込んだと認められません。
また、海外送金は取扱銀行や通貨等によって、本国での送金から日本の銀行口座に着金するまでの日数が異なる場合もあるため、送金スケジュールを予め確認しておくことべきです。さらに、海外送金できる金額について上限(例:人民元/年間1人あたり5万米ドル)がある場合もあるため注意してください。
8.登記申請と会社設立の完了
資本金の払込完了後、法務局へ登記申請を行います。登記申請書類の作成及び登記申請は司法書士が行います(法律上本人及び弁護士・司法書士以外は登記申請ができません)。登記申請から概ね3-7営業日で登記が完了します。登記完了後、登記簿謄本・会社の印鑑証明書を取得します。登記簿謄本は、法人の銀行口座開設や法人名義で不動産物件を借りる手続きで使用します。
9.税務署への各種届出
税務署へ以下の書類を届出します。届出した書類は経営管理ビザの申請時に入国管理局にも提出します。ご自身又は税理士により提出します(当事務所より税理士のご紹介もできます)。
10.社会保険等の届出
法人の事業所は、従業員の人数に関わらず社会保険加入が義務付けられています。これは社長1名だけの会社でも同じです。「社会保険保険料が高いから加入しない」という小さな会社もありますが法令違反です。将来的に「経営・管理」から「永住」の変更申請をするには、社会保険へ加入していることが条件となるため注意してください。
11.日本銀行への外為法の報告書の提出
外国居住の外国人(非居住者)または外国法人が10%以上を出資して会社を設立する場合、日本銀行に外為法上の届出をする必要があります。なお、国籍や業種によって事前届出義務が生ずる場合もあるため注意が必要です。
(まとめ)
このように外国人の日本での会社設立は、必要な許認可や経営管理ビザなどの要件、事業計画について複合的に検討する必要があります。当事務所では、それらの論点を整理して適切なストラクチャーで起業できるよう支援します。
プロフェッショナル
村井将一(むらい まさかず)
外国人専門起業支援プロデューサー。
~外国人の起業ビザから資金調達までスタートアップを徹底的に支援~
起業のためのビザの不許可・審査長期化のリスクを専門家が200%低減!!
三菱UFJモルガン・スタンレー証券(三菱UFJフィナンシャルグループと米モルガン・スタンレーとのジョイントベンチャー)の投資銀行部門で500人以上の起業家や経営者へ企業の資金調達やM&Aなどのアドバイスを実施。在職中、現場業務に従事しながら従業員組合中央執行委員として職場内の外国人や女性の活躍などのダイバシティ推進、労務環境改善活動に従事。専門は外国人の在留資格手続きに関わるコンサルティング及び財務コンサルティング。
行政書士、東京都行政書士会 港支部 執行役員
CFP(Certified Financial Planner)、日本証券アナリスト協会検定会員